不動産アセットマネジメント(AM)視点でのZEB戦略の重要性

ZEB戦略の背景とAM領域における必要性

①ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)戦略とは

ZEB(Net Zero Energy Building)は、建物の年間エネルギー消費を実質ゼロにすることを目指す設計コンセプトです。高断熱・高効率設備による省エネと、太陽光発電などの創エネを組み合わせることで、消費と創出エネルギーを相殺します。新築だけでなく既存建物の改修でも実現可能であり、災害時の自家発電といった利点もあります。企業やビルオーナーの関心が高まっている状況です。

②不動産アセットマネジメントにおけるZEB戦略の意義

不動産アセットマネジメント(AM)では、資産価値の最大化とリスク管理が大切です。ZEB化により運営コストを削減しつつ、環境性能の見える化でテナント満足度や資産価値の向上が期待できます。特にJ-REITなど複数物件を扱うAMにとって、ポートフォリオ全体のESG価値を高めることは、投資家への訴求力や資金調達力の強化にも繋がってくるため非常に重要です。

現在、環境方針や再エネ導入はすでに前提となっており、ZEBは脱炭素時代のESG戦略の要としてAM担当者が無視できないテーマとなっています。

③規制動向と投資家意識の変化

政府はカーボンニュートラル実現に向け、省エネ基準を大幅に強化中です。2030年には新築建築物でZEB水準の省エネ性能を平均達成、2050年には建築ストック全体での達成を目標としています。中大規模建物のZEB基準適合義務化に加え、2025年度からは小規模建物も対象となる見込みです。

一方で、機関投資家はGRESBや環境認証を重視し、脱炭素対応を投資判断の一つとしています。こうした規制や投資家意識の変化に対し、ZEB戦略を持たないことは将来のリスクとなり得ます。エネルギー性能の向上は、法令対応だけでなく資産価値の維持・向上にも直結するため、AM担当者にはZEBへの対応が強く求められています。


日本におけるZEB推進の実態

①政府による制度整備と普及促進

政府はZEBの普及を推進し、各地の公共施設でZEB ReadyやNearly ZEBの認証取得が進んでいます。実例として、滋賀県高島市新庁舎(約1.1万㎡)、奈良県大和高田市庁舎(1万㎡超)がZEB Readyを取得しており、自治体レベルでの導入も加速しています。

あわせて、政府は不動産オーナー向けの「ZEBリーディング・オーナー」登録制度や、専門人材の「ZEBプランナー制度」(2017年創設)を整備し、産官学連携でのZEB推進体制を強化しています。

②民間事業者の先進事例

民間でもZEB導入が本格化しています。三菱地所は「新築建物は原則ZEB水準」を掲げ、グループ全体で環境配慮型開発を推進。三菱地所レジデンスもZEH-M Oriented(集合住宅版ZEB)の標準化を進めています。

運用段階では、J-REIT各社がZEB化に注力しており、その中でもジャパンリアルエステイト投資法人(JRE)は2030年度までにCO₂排出量を2019年度比80%削減する目標を掲げ、ZEB化を重要施策に位置づけています。具体例として「JRE東五反田一丁目ビル(築16年、6,500㎡)」では、LED照明や高効率空調の導入などによりBEI値を0.84から0.47に削減し、ZEB Ready認証を取得しています。

JREは今後、ZEB Ready/Oriented物件を5~10棟保有することを目指しており、大手AM会社による先進的なZEB戦略として注目されています。

③ZEB化推進上の課題

  • コストと対象物件の選定:ZEB化には初期費用が大きく、特に古いビルや高層ビルでは断熱・空調面での難しさがあります。JREでも全物件一律のZEB化は困難とし、コストと効果のバランスを見ながら選定を行っています。
  • オーナーとテナントの利害不一致:ZEBによる光熱費削減の恩恵を受けるのはテナント側ですが、改修費用を負担するのはオーナー側です。このギャップを埋めるために、補助金やグリーンリース、ZEBリーディングテナント制度などの整備が進められています。
  • ノウハウと人材の不足:ZEBの設計・施工には高い専門性が求められますが、対応できる人材は限られています。AM会社には、外部専門家と連携する体制整備と、社内人材の育成の両方が求められています。

AM会社が取るべき戦略と人材戦略

①長期的なZEB計画の策定

まず、運用資産のエネルギー効率を把握し、2030年・2050年を見据えた脱炭素とZEB化の目標を設定します。各物件のZEB適合可能性を評価し、優先改修物件を選定。環境省・国交省の補助金や税制優遇なども活用しながら、段階的・計画的に省エネ改修を実施していくことが重要です。

②テナントとの協働とESG情報開示

ZEB改修による光熱費削減、快適性向上、CSR効果をテナント企業に説明し、理解と協力を得ることが重要です。その中でグリーンリースの導入や、テナントと連携した省エネ活動も有効です。さらに、ESGレポートなどを通じてZEBへの取り組みを積極的に開示し、投資家や社会からの信頼・支持を獲得していく姿勢が求められます。

③専門人材の採用と育成

今後、社会の動きに取り残されないよう、社内でZEB推進を担える人材を育成・確保することは不可欠です。省エネ・再エネに詳しい建築士や設備エンジニア、エネルギーマネジメント資格者などの登用や、社員研修の充実がポイントです。今後は「ESG知識や認証取得経験を持つ人材」が不動産業界で重宝されると予測されており、AM会社としては建築環境工学や環境金融に強い人材を積極採用することで、組織のZEB対応力を高められます。

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世界のZEB動向と日本の課題

①ZEB戦略:日本 vs 海外の比較

②国・地域別に見るZEB×不動産意識と投資傾向の定量比較

CBREやJLLなど複数の調査結果から、各国・地域におけるZEBやESGに対する投資意識や行動には顕著な差異が見られます。

  • 欧州
    全体の95%の投資家が「サステナビリティを投資判断における主要要素」として位置づけており、ZEB化や既存物件のレトロフィット(建物においては施工後に目的に応じた修繕を行うこと)は運用戦略の中核を担っています。
  • 日本
    ZEB認証オフィスビルにおいては、賃料プレミアム(賃貸物件において、立地、設備、ブランド力などの付加価値によって、通常の賃料よりも高く設定された賃料)が5.4〜6.4%に達しており、投資収益率にも一定の影響を与えています。ZEBの存在が収益の差別化要因となりつつあることを示しています。
  • シンガポール
    国家政策として建築物全体の80%以上にグリーン認証を付与する目標が掲げられており、ZEB・グリーンビルディングの賃料プレミアムは最大9.9%と高い数値を記録しています。

このように、ZEBやグリーンビルディングに対する市場の評価や投資判断は地域によって大きく異なりますが、日本においても今後の不動産投資戦略においてZEBは無視できない重要項目となりつつあります。

③日本市場が直面する課題と今後の対応方向

このような世界的潮流を踏まえ、日本のZEB普及に向けては、以下の課題への対応が求められています:

  • 法的枠組みの強化
    ZEB適合基準の法的義務化範囲を拡大し、民間プロジェクトへの適用拡大を図る必要があります。
  • インセンティブの再設計
    オーナーのみならず、テナントにも省エネメリットが還元されるよう、経済的誘因の再構築が求められます。
  • 人材・技術の育成と標準化
    ZEB設計・運用に対応可能な技術者やプロジェクトマネージャーの育成、ならびに設計・施工の標準化が不可欠です。
  • ESG金融・GX経済移行債の活用強化
    ESG資金やGX経済移行債を活用した資金調達スキームを促進することで、ZEB化プロジェクトの投資魅力を高めることができます。
  • 欧州型普及モデルの導入と応用
    欧州でのZEB普及に成功している制度・運用モデルを日本市場に適用可能な形で輸入・実証し、現地適合型モデルとして展開することが期待されます。

まとめ

①ZEB戦略の重要性が増す中で、AM担当者に求められるスキルとは

ZEBやグリーンビルディングへの関心が高まる中、不動産AM担当者にも環境・エネルギー分野の専門性が求められています。

まず、省エネ改修や設備更新に関する知識、エネルギー消費量の分析力はZEB化の判断や専門家との連携に役立ちます。

また、CASBEE・BELS・LEED・ZEB認証などの取得経験があれば、REITやファンドからも高く評価されます。さらに、グリーンボンドやサステナビリティ・リンク・ローンといったESG金融の理解も重要となってきます。ZEB化を資金面から支える提案ができると、投資家や経営層への説得力も増します。

加えて、テナント調整・補助金申請・技術者との連携など、プロジェクトマネジメント力も不可欠です。今後は「ファイナンス × 技術 × 調整力」を兼ね備えた人材が、ZEB戦略をけん引する存在となっていくと考えられます。

②転職市場での価値を高めるには、ZEBとどう関わるか

ZEB・ESG分野に精通した人材は、今後の不動産業界でますます重宝されます。ESG担当やサステナビリティ部門を新設する運用会社も増え、環境対応の実績がある人材のニーズは確実に上昇中です。

キャリア価値を高めるには、現職でZEB関連プロジェクトや環境認証業務に積極的に関わることが最も効果的です。さらに、関連資格の取得(例:エネルギー管理士、LEED AP、ZEBプランナーなど)や、セミナー・カンファレンスへの参加による知識強化もおすすめです。

情報収集と人脈づくりを並行しながら、ZEB・ESG対応のプロフェッショナルとしての信頼性を築くことで、将来の転職選択肢や市場評価が広がっていきます。

③ZEBスキルはこれからのAM人材にとっての“武器”になる

ZEBをはじめとするサステナビリティ分野の知識と実践経験は、今後の不動産AM業界で間違いなくキャリアの武器となります。この成長分野で専門性を磨きたい方には、戦略的なキャリア支援が重要です。bloomでは、不動産AM領域に特化したキャリアコンサルティングを通じて、転職戦略のサポートを行っています。今の職場での実績作りから、将来的な転職活動まで、あなたの価値を高めるキャリア設計を一緒に考えさせていただきます。

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【参考文献】

環境省 「ZEB普及目標とロードマップ」 環境省 ZEBポータル【環境省】(2021年8月公表)

経済産業省 資源エネルギー庁 「ZEBロードマップ検討委員会 とりまとめ(案)」(2015年11月)

三菱地所株式会社 サステナビリティサイト 「気候変動(CO₂削減・エネルギーマネジメント)への対応」(2023年)

ARES(一般社団法人不動産証券化協会)「ARES ESG AWARD 2024 審査結果」(2025年1月24日発表)

J-MONEY Online記事 「ARES ESG AWARD 202http://mec.disclosure.site4 受賞社プレゼンテーション」(2025年5月21日)

大阪ガス「世界の省エネレポート:Zero Energyなビルや住宅が、欧米で拡大中」(2017年12月)

武田薬品工業 プレスリリース 「シンガポール初となる『ゼロ・エネルギー・ビル』の建設に着工」(2021年9月24日)

bloom(bloom株式会社)業界研究コラム 「J-REITを中心としたESG投資と環境認証の最前線」(2025年4月21日)