テクノロジーの進展により、コンサルティングファームの根幹である「人の専門性」に大きな変化が生じております。DX(デジタルトランスフォーメーション)や生成AIの台頭によって、コンサルティング業務そのものが再定義されつつあります。各ファームは従来の研修の枠を超え、「戦略的リスキリング」を積極的に推進しています。これは単なる人事施策ではなく、企業の人的資本を再構築する取り組みであり、競争力の強化や企業の生存戦略に直結する重要な要素となっています。
リスキリングの必然性
リスキリングとは何か
経済産業省は、リスキリングを「職業変化に対応するために必要なスキルを獲得すること」と定義しています。
- OJTとの違い:OJTは現在の職務の能力開発であるのに対し、リスキリングは未経験領域への適応を目的としています。
- リカレント教育との違い:リカレントは個人主導ですが、リスキリングは組織主導で進められるのが特徴です。
- アップスキリングとの違い:既存スキルの深化(アップスキリング)に対し、リスキリングは全く異なるスキルへの転換を意味します。
リスキリングは事業戦略と密接に連動し、「組織は戦略に従う」という原則のもとで人的資源を再編成するものです。
DXと生成AIが生む変化
DXはコンサルファームの内部体制にも変革を促し、生成AIは従来の定型業務を自動化しています。このような状況の中で、コンサルタントの価値はより“上流工程”へと移行しています。クライアントは、AIを理解し、活用できる人材に対して、より高速かつ革新的なソリューションを期待するようになっています。
21世紀型コンサルタントの姿
現在求められているのは、技術力と人間力を兼ね備えた「ハイブリッド人材」です。
- 技術力:AI・機械学習・データ分析・クラウド・IoTなどへの理解
- ビジネス理解:ITと経営戦略を結びつける力
- ヒューマンスキル:創造性・文脈理解・関係構築・デザイン思考
これらは単なるスキルの拡張ではなく、「問いを立て、変革を設計し、実行する力」へのシフトを意味しています。ファームの取り組みは、クライアント企業が目指すべき未来の人材モデルの先行事例となっています。
学習エコシステムの構築プロセス
フェーズ1:戦略的診断
最初に行うべきは、将来の事業戦略を実現するために必要なスキルを明確に定義し、現在のスキルとのギャップをスキルマッピングによって可視化することです。対象は、AIやGX、データサイエンスといった領域が中心となります。
フェーズ2:多様な学習設計
理論と実践の統合が成功の鍵となります。
- プロジェクト型学習:実務に即したケースや実践演習
- EYの伴走モデル:実際の業務に寄り添った支援
- 越境学習:他組織や外部環境で新たな視野を獲得
- 徒弟制(BCG):シニアから若手への思考やマインドセットの継承
これらに加え、集合研修やオンライン講座なども活用し、多様な学習スタイルに対応します。
フェーズ3:文化的統合
学習が定着するためには、組織文化の支援が不可欠です。
- 経営層が学びを率先して体現する
- 学習時間を就業時間内に確保する
- 継続的な投資と心理的安全性を提供する
- 社内SNSや実践コミュニティで相互学習を促す
「全員で学ぶ」という文化を築くことで、学習の継続性と浸透力が高まります。
フェーズ4:実践と評価
新たに獲得したスキルを実践する場を用意し、業績評価・昇進・報酬といった制度と連動させることが重要です。また、参加者からのフィードバックを反映し、継続的な改善サイクルを確立していきます。
リスキリングは単なる教育プログラムではなく、「学習・実践・文化・経営」が一体化したエコシステムであるべきです。企業は「何を学ぶか」を戦略的に定めるとともに、従業員に対して「どう学ぶか」の選択肢と「なぜ学ぶか」の目的意識を与えることが求められます。
先進ファームの取り組み事例
PwC
「リスキリング・ビヨンドDX」プログラムでは、成果から逆算するバックキャスト型で必要なスキルを定義しています。OJT重視の実践的モデルであり、対外的な支援サービスにも応用しています。
デロイト トーマツ
サイバーセキュリティやGXの分野に特化したアカデミーを設立し、4Eモデル(Expectations, Experiences, Exposure, Education)に基づき、循環型の人材育成を行っています。
EY
「完全伴走型」の学習支援が特徴で、コンサルタントが現場に寄り添いながらスキル移転を支援し、キャリア支援のためのカウンセラー制度を導入しています。
KPMG
リスキリングの初期フェーズは人事・財務部門などからスタートし、徐々に全社へと展開。リテラシー定義やキャリアパス・報酬制度といった要素と連動した、包括的なデジタル人材フレームワークを整備しています。
MBBのアプローチ:リーダーを育てる“個別化”モデル
戦略コンサルティングファーム(マッキンゼー、BCG、ベイン)は、次世代リーダーの育成に重点を置いた、個別的かつ厳格な能力開発戦略を採用しています。
- マッキンゼーは「Up or Out」文化を基盤に、キャリアコーチの配置、徹底したフィードバック、入社初日からのリーダーシップ育成に力を注いでいます。また、多様性のある人材パイプライン形成にも積極的に取り組んでいます。
- BCGでは、シニアが若手を育成する徒弟制型の文化が特徴です。思考法や問題解決のアプローチを直接継承し、PTO(Predictability, Teaming, Open Communication)制度などにより、持続可能な成長環境を整備しています。
- ベインは、業界屈指のトレーニング体制に加え、海外勤務制度やエクスターンシップ、個人の成長を支援する長期休暇制度「Take Two」など、独自の成長支援制度を展開しています。「ベインの仲間は決して仲間を見捨てない」という文化がその根底にあります。
MBBが“エリート個人の育成”に注力しているのに対し、BIG4は“拡張可能なシステム”によって、組織全体のデジタル能力を高めることを重視しています。これは、それぞれのビジネスモデル(専門性特化型 vs サービス多層型)の違いを反映しており、事業戦略と人材戦略が密接に連動していることを示しています。
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リスキリング導入の壁とその克服法
エンゲージメントのジレンマ:燃え尽きと抵抗の克服
多忙な業務に加えて学習を行うことは、ストレスや燃え尽き症候群の原因となり得ます。特に年配の従業員の中には、新しい学びに対する心理的な抵抗感を抱える方もいらっしゃいます。
そのため、以下のような対策が求められます。
- リーダーの明確な姿勢と一貫したメッセージの発信
- 就業時間内での学習時間の確保
- 報酬・承認・チーム学習などによるモチベーションの維持
- 個別最適化(ペース調整や小さな成功体験の積み重ね)
リテンション・パラドックス:投資が流出に繋がる懸念
従業員にスキルを習得させた後、より好条件の他社へ転職されてしまう「流出リスク」を懸念し、リスキリングに二の足を踏む企業も少なくありません。しかし、重要なのは「去るかどうか」ではなく、「留まりたくなる環境を構築すること」です。
具体的には、次のような施策が有効です。
- 実践の場を即座に提供し、学んだことが活かせる環境を整える
- 学習文化や帰属意識を育てる組織づくり
- スキルアップをキャリアアップや昇進と結びつける
- 柔軟な働き方やウェルビーイングへの投資
本質的なリスクは、スキルを身につけた人が去ることではなく、スキルの陳腐化を放置してしまうことにあります。
マネージャーの役割進化:リーダーから“コーチ”へ
多くの中間管理職が人材育成に消極的であることも、リスキリングが定着しにくい要因です。この課題を解決するには、マネージャーの役割を再定義することが不可欠です。
- 育成責任を明文化し、人事評価に組み込む
- コーチング・フィードバック・メンタリングスキルの提供
- 人事部を「研修の実施部門」から「育成を支援する戦略的パートナー」へと位置づけ直す
結論と戦略的提言
リスキリングは、もはや人事施策ではなく、企業の事業戦略の中核的要素となっています。テクノロジーへの適応力の強化だけでなく、クライアントへの提供価値と自社の人的資本の活性化の双方において不可欠な取り組みです。
成功するファームでは、学習を文化や業務に組み込み、ダイナミックかつ統合された学習エコシステムを構築しています。
企業が今すぐ取り組むべき「5つの戦略的提言」
- 事業戦略から逆算したリスキリング設計
研修カタログから始めるのではなく、「3~5年後に何が必要か?」という問いからスタートしましょう。 - 業務に統合された継続的な学習の導入
座学だけでなく、プロジェクト型学習やOJTを軸に据えた仕組みづくりが鍵です。 - マネージャーを“育成責任者”として再定義する
育成成果を評価指標に組み込み、チームの成長に責任を持たせましょう。 - 心理的安全性のある文化を育む
失敗を許容し、学びが奨励される職場環境を整えることで、継続的な成長が実現します。 - 離職リスクではなく「留まる価値」を創出する
人材が「ここで成長したい」と思えるキャリアパスと支援制度を構築しましょう。
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参考URL
リスキリングとは―DX時代の人材戦略と世界の潮流 – 経済産業省
リスキリングとは?注目される背景やメリットを最新調査に基づいて解説
【人材育成】企業が今知っておくべき「リスキング」と「リカレント」|iroha(イロハ)
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