サマリー
2025年、不動産アセットマネジメント(AM)業界はかつてない変革と採用の波の中にあります。金利のある世界への移行やESG対応の必須化により、現場を知るプロパティマネジメント(PM)経験者の価値が再評価されています。本記事では、PMからAMへのキャリアチェンジを目指す方に向けて、業界の最新動向、求められるマインドセットの転換、そして選考を突破するための具体的な対策を徹底解説します。未経験・ポテンシャル層が知っておくべき必須スキルや年収イメージも網羅しています。
🔗不動産アセットマネジメント(AM)業界の激務の変化|現場での声は「長時間労働」ではなく、「案件獲得の難易度上昇」「新しい業務領域(ESG等)の拡大」 –
はじめに:2025年、PM経験者が「最強の候補者」になる理由
「現場を知らないAMが描く事業計画には無理がある」
PM業務に従事する中で、そう感じたことはないでしょうか。逆に、「もっと予算があれば、この建物の価値を上げられるのに」というジレンマを抱えた経験もあるはずです。
2024年から2025年にかけて、不動産投資市場は力強い回復を見せています。国内の不動産投資額は半期で約3兆円を超え、オフィスやホテルへの投資意欲は旺盛です。しかし、この好況下でAM会社が直面しているのは、「物件を買う競争の激化」と「金利上昇による収益確保の難易度アップ」という課題です。
かつてのような「買っておけば値上がりする」時代は終わりました。これからのAMには、テナントのニーズを肌感覚で理解し、建物の物理的なリスクを予見し、泥臭いコスト削減や賃料交渉を積み重ねて利益(NOI)を最大化する能力が求められます。
つまり、「現場の解像度」を持つPM出身者こそが、今、最も求められている人材なのです。この記事では、PMとしての経験を武器に変え、投資家の代理人であるアセットマネージャーへとステップアップするための戦略を紹介します。

不動産アセットマネジメント業界の現在地
転職活動を成功させるためには、まず敵(業界環境)を知ることが必要です。
投資市場の回復とセクターの動向
2025年の不動産市場は、「オフィス回帰」と「インバウンド復活」がキーワードです。東京都心のオフィス空室率は低下基調にあり、賃料上昇への期待が高まっています。また、観光需要を背景としたホテルや、物流網の再編に伴う物流施設への投資も活発です。これにより、AM会社では新規物件の取得(アクイジション)を担う人材や、取得後の運用(期中管理)を行う担当者の採用ニーズが急増しています。
「金利ある世界」がもたらす業務の変化
長らく続いた超低金利時代の終わりは、AMの業務に大きな変化をもたらしました。借入金利が上昇するため、これまで通りの運用では投資家への配当利回りを確保できなくなっています。
そのため、AMは金融の知識を駆使して有利な条件で資金調達を行うだけでなく、物件そのものの収益力を底上げする「運用力」が問われるようになりました。単なる管理ではなく、戦略的なバリューアップ工事や、テナント入替による賃料増額といった施策が、今まで以上に重要視されています。
海外投資家の動きとグローバル化
円安を背景に、海外投資家による日本の不動産取得も再び加速しています。外資系ファンドや、海外資金を預かる国内AM会社では、英語力に加えて、グローバル基準のESG(環境・社会・ガバナンス)対応ができる人材を求めています。
PMとAMの決定的な違いとは
面接で必ず聞かれる「なぜPMからAMになりたいのですか?」という質問。これに答えるためには、両者の役割の違いを深く理解する必要があります。
役割と視点の違い一覧

「コスト」から「投資」への思考転換
PMにとって、設備の故障や修繕は「コスト」であり、できるだけ安く抑えたいものです。一方、AMにとってそれは「投資」の機会になり得ます。「100万円かけてエントランスを改修すれば、賃料を坪1,000円上げられる。結果として物件価値が2,000万円上がる」というロジックで判断します。
この**「投資対効果」で物事を考えるマインドセット**への切り替えが、転職成功の第一歩です。
ファンドの仕組み(TK-GKスキーム等)
AMは、投資家から預かった資金を運用します。その際、資産を保有するのは「合同会社(GK)」などの器(SPV)であり、投資家は「匿名組合(TK)」出資などを行います。AM会社はこのGKから業務を受託し、実際の運営を行います。
未経験であっても、こうしたスキームの概要や、J-REITと私募ファンドの違い(投資期間やリスク許容度の差)については、書籍などで予習しておくことをお勧めします。
アセットマネージャーの業務内容詳細
AMの仕事は、物件のライフサイクルに合わせて大きく3つのフェーズに分かれます。
1. アクイジション(取得)
投資対象となる物件情報をソーシング(収集)し、購入するかどうかの判断を行います。
仲介会社等から情報を入手し、Excelでキャッシュフローを試算(アンダーライティング)し、いくらで買えば投資家の期待するリターンが出るかを計算します。その後、弁護士やエンジニア等の専門家を起用して詳細な調査(デューデリジェンス)を行い、リスクを洗い出した上で売買契約を結びます。
ここはスピードと交渉力が勝負の世界であり、最も「激務」になりやすいフェーズですが、大きな金額を動かす醍醐味があります。
2. 期中運用(アセットマネジメント)
PM出身者が最も活躍しやすい領域です。
PM会社に対してリーシングの方針(賃料設定や広告条件)を指示したり、年間の収支計画(予算)を策定したりします。毎月・四半期ごとにPMから上がってくる報告書(マンスリーレポート)を精査し、予算と実績に乖離があればその原因を分析し、投資家へのレポートとしてまとめます。
また、大規模修繕やリノベーション工事の立案・実行を行い、物件の競争力を維持・向上させることも重要な任務です。
3. ディスポジション(売却)
運用の出口(Exit)です。市場環境を見極め、最も高く売れるタイミングと売却先を選定します。入札の実施や、買主からのデューデリジェンス対応を行い、最終的な投資利益を確定させます。
未経験・ポテンシャル採用の実態と対策
「未経験でも本当に転職できるのか?」という不安に対して、2025年の最新トレンドを基にお答えします。
ポテンシャル層のターゲット
現在、多くのAM会社が「社会人経験はあるがAM未経験」のポテンシャル層を積極的に採用しています。
特に歓迎されるのは以下のような属性です。
- PM経験者(20代後半〜30代半ば): 建物管理の実務知識、テナント対応の経験がある方。
- 金融機関出身者: 融資や法人営業の経験があり、財務諸表が読める方。
- 不動産仲介・開発経験者: 不動産取引の実務や契約関連の知識がある方。
年齢的には、完全未経験であれば20代が中心ですが、PMとしての専門性が高い場合や、人手不足の中堅AM会社などでは、30代でも十分にチャンスがあります。
求められるスキルと資格
ポテンシャル採用とはいえ、丸腰で挑むのは無謀です。以下のスキルや知識をアピールできるように準備しましょう。
- 係数感覚(Excelスキル):
AM業務ではExcelでの収支シミュレーションが必須です。DCF法(ディスカウント・キャッシュフロー法)の概念を理解し、NOI、Cap Rate(還元利回り)、LTVなどの基本用語を使いこなせるようにしておきましょう。 - 論理的思考力とコミュニケーション能力:
投資家、PM、信託銀行、弁護士など、多くの関係者の利害を調整し、論理的に説明する力が求められます。 - 資格の取得:
「宅地建物取引士」は必須と考えましょう。さらに「不動産証券化協会認定マスター(ARESマスター)」や「日商簿記2級」、「不動産鑑定士」などの資格を持っている、あるいは勉強中であることは、意欲の証明として非常に有効です。
英語力の必要性
外資系AMを目指す場合、ビジネスレベルの英語力は必須です。国内系であっても、海外投資家を相手にする部署ではTOEICのスコアなどが評価対象となります。ただし、国内投資家向けのドメスティックなファンドであれば、英語力は不問とされるケースも多くあります。
PM経験者が面接で勝つための「翻訳」テクニック
PMの業務経験を、そのまま話すだけではAMの面接官には響きません。PMの実績をAMの言葉に「翻訳」して伝えることが重要です。
失敗例
「テナントからのクレームに迅速に対応し、満足度を向上させました。」
「空調機のフィルター清掃を徹底し、管理状態を良くしました。」
これらはPMとしては素晴らしい実績ですが、AMから見ると「それは当たり前の業務(やって当然のこと)」と捉えられがちです。
成功例(AM視点への翻訳)
「テナントとの日々の対話から増床ニーズをいち早く察知し、AMに提案して空室区画への移転・増床を実現しました。これにより、リーシングコスト(仲介手数料等)をかけずに稼働率を100%にし、NOIを年間○○万円向上させました。」
「長期的な修繕コストを分析し、予防保全的な部品交換を提案しました。これにより突発的な故障リスクを低減し、予算の予実差異を最小限に抑えることで、安定したキャッシュフローの創出に貢献しました。」
ポイントは、「定性的な頑張り」を「定量的な利益(数字)」に変換して伝えることです。
新たなトレンドとキャリアパス
ESGとデータ管理の重要性
近年、環境配慮型不動産への投資が加速しています。GRESB(グローバル不動産サステナビリティ・ベンチマーク)などの評価を取得するために、エネルギー使用量のデータ収集や、省エネ改修の提案を行う業務が増えています。
PMとして現場での検針データ管理や、テナントへの協力要請を行ってきた経験は、実はこのESG対応において大きな強みとなります。面接でも「現場でのデータ収集の難しさを知っているからこそ、実効性のあるESG施策を推進できる」とアピールできます。
キャリアパスと年収
晴れてAMに転職できた後のキャリアはどうなるのでしょうか。
- 年収: 一般的にPM職よりも高い水準にあります。ポテンシャル採用の初年度でも年収500万円〜800万円程度、経験を積んでマネージャークラスになれば1,000万円〜1,500万円、外資系や成果報酬型の企業ではそれ以上の報酬も珍しくありません。
- キャリアの広がり: 一つのアセットタイプ(オフィス等)を極めるスペシャリストの道もあれば、アクイジションから運用、売却まで全体を統括するファンドマネージャーへの道もあります。また、事業会社(一般企業の不動産部)やデベロッパーへ転職する際も、AMの経験は高く評価されます。
転職活動の進め方
情報収集とエージェント活用
AM業界の求人は、その多くが「非公開求人」です。企業のウェブサイトには載っていない、エージェント経由でしか応募できない案件が大半を占めます。
また、会社によって投資対象(オフィス主体か、ホテル主体か等)や社風(銀行系で堅実か、独立系でイケイケか)が全く異なります。自分に合った会社を見つけるためにも、業界に詳しい転職エージェントを利用し、各社の「今」の情報を得ることが近道です。
職務経歴書のブラッシュアップ
PM時代の担当物件一覧を作成する際は、単に物件名や規模を書くだけでなく、担当していた際の「空室率の改善推移」や「賃料改定の実績」、「工事によるバリューアップ効果」などを数字で盛り込みましょう。それがあなたのアセットマネージャーとしての「ポテンシャル」を証明する資料となります。
おわりに
PMからAMへの転職は、決して「隣の部署への異動」のような簡単なものではありません。使う言葉も、見る数字も、責任の所在も変わります。しかし、建物という実物資産の価値を肌で知っているPM出身者には、金融出身者にはない「現場感」という強力な武器があります。
2025年、不動産投資市場は再び熱を帯びています。企業側も、即戦力だけでなく、熱意と素養のあるポテンシャル層を求めています。
不動産業界に少しでもご興味をお持ちの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
あなたのこれまでの経験の中に、きっと活かせる強みが眠っています。
🔗不動産、金融転職に特化したサポートをしているbloom株式会社では、これまでのご経験をどのように新しいキャリアに繋げられるのか、丁寧にご説明させていただきますので、ぜひ一度ご相談ください。
参考URL
【2025年上半期】日本不動産投資市場の最新動向 – オフィスが牽引し投資額3兆円超
【図解】GK-TKスキームとは?メリットと特徴をわかりやすく解説します。
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⚫︎監修者
bloom株式会社 最高執行役社長 (COO) 小田村 郷
慶應義塾大学を卒業後、三井不動産リアルティ株式会社に入社し、不動産仲介(リテール・法人)の第一線で実務経験を積む。
その後、トーセイ・アセット・アドバイザーズ株式会社に移籍。不動産ファンドのアセットマネジメント(AM)業務を専門に担当し、投資家サイドの高度な専門知識を習得する。
独立後、bloom株式会社に参画。最高執行役社長として、不動産仲介からアセットマネジメントまで、不動産業界の川上から川下までを熟知したプロフェッショナルとして事業全体を牽引している。