グローバル投資・クロスボーダー案件の拡大:不動産アセットマネジメントにおける非公開求人の一般化
今日の不動産アセットマネジメント(AM)業界において、グローバル投資とクロスボーダー案件は、もはや特別なものではなく、日常的なビジネスの柱となっています。
世界経済の相互依存関係の深化、資本移動の自由化、そして各国の市場特性や投資機会の多様化が、国境を越えた不動産投資を加速させています。
この流れは、企業が求める人材像を変化させ、結果として質の高い専門人材を獲得するための採用戦略として、「非公開求人の一般化」を促しています。
本稿では、不動産AMにおけるグローバル投資とクロスボーダー案件の現状と展望を深掘りし、それに伴い一般化している非公開求人の背景と、そこで求められる人材要件について詳しく解説します。
グローバル投資とクロスボーダー案件の拡大
不動産AMにおけるグローバル投資とは、自国以外の不動産市場へ資金を投じることを指し、クロスボーダー案件とは、そのような国際的な投資活動に伴う具体的な取引やプロジェクトを意味します。この分野が拡大している背景には、下記のような複数の要因があります。
- 投資ポートフォリオの分散とリスクヘッジ
投資家は、単一の国や地域に投資を集中させるリスクを回避するため、グローバルな分散投資を志向しています。異なる経済サイクルを持つ国々の不動産に投資することで、特定の市場の下落リスクを回避し、ポートフォリオ全体の安定性を高めることができます。
例えば、国内市場が成熟期にある場合、成長性の高い海外市場に目を向けることで、より高いリターンを追求することが可能です。また、国内市場において需給バランスが崩れ、十分な利益が見込めない場合には、需給バランスの取れた海外市場に目を向けることで、ポートフォリオ全体の安定性を高めることが可能です。
例)コロナ以降、米国ではリモートワークの普及によりオフィス需要が減少した。一方で、日本ではリモートワークが十分に浸透せず、オフィス需要が比較的安定していたため、海外投資家の間では投資対象を日本のオフィス市場へとシフトする動きが見られた。
- 高いリターンの追求と投資機会の多様化
低金利環境が続く中で、機関投資家や富裕層は、株式や債券といった伝統的なアセットクラスに代わる、より高いリターンが期待できる投資先を求めています。不動産は比較的安定したキャッシュフローを生み出す魅力的なアセットクラスであり、特に新興国の成長市場や、先進国における特定のセクター(データセンター、物流施設など)では、高い投資利回りが見込めます。
また、日本の物流施設においては、2024年に顕在化した働き方改革の影響により、ドライバーの労働時間が見直されたことを受けて、中継拠点となる物流倉庫の整備が進められており、これが国内における物流倉庫需要を押し上げる要因となっています。
- 為替リスクと為替ヘッジ戦略
グローバル投資においては、為替変動がリターンに大きな影響を与えるため、為替リスクの管理が重要となります。円安局面では、海外投資家にとって日本への投資が有利になり、逆に日本の投資家にとっては海外不動産投資のコストが増加する可能性があります。AM会社は、為替ヘッジ戦略や、為替変動に強いアセットタイプ(例えば、現地通貨建てで安定的な収益が見込める物件)の選定など、高度な為替リスク管理能力が求められます。
- 海外投資家による日本市場への関心
日本の不動産市場は、政治・経済の安定性、比較的高いキャップレート(還元利回り)、先進国の中でも依然として魅力的な価格水準、そして主要都市における再開発による魅力向上など複数の観点から、海外投資家にとって非常に魅力的な投資先であり続けています。特に、東京のオフィスビル、都心部の住宅、Eコマース需要に支えられた物流施設などへの投資が活発です。
また、インバウンド需要の高まりを受けて、観光客向けのホテルやサービスアパートメントも注目を集めています。今後は、2030年に訪日外国人観光客が4,000万人に達するとの見通しのもと、ホテル需要も一層拡大していくと考えられます。
- 新規アセットタイプへの注力
前述の通り、データセンター、物流施設、サービスアパートメントといった新規アセットタイプへの投資は、グローバル規模で拡大しています。これらのアセットは、デジタル化の進展や少子高齢化といった世界共通の社会変化に対応するものであり、国境を越えて投資家からの注目を集めています。AM会社は、これらの新しいアセットに関する専門知識と運用ノウハウを蓄積し、グローバルな競争力を高めています。
- テクノロジーの進化による障壁の低下
プロップテックの発展は、地理的な障壁を低下させ、グローバルな不動産投資をより容易にしています。
プロップテックとは…「Property(不動産)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語で、不動産業界におけるデジタル技術の活用全般を指します。
- データプラットフォーム: 世界中の不動産データを集約・分析するプラットフォームの登場により、海外市場の調査や比較検討が迅速かつ正確に行えるようになりました。
- バーチャルツアー/VR内覧: 遠隔地からの物件内覧や、海外の物件担当者とのオンライン会議などが普及し、物理的な移動を伴わずに物件の詳細を確認できるようになりました。
- スマートコントラクト/ブロックチェーン: クロスボーダー取引における契約手続きの効率化、透明性の確保、コスト削減に貢献する可能性を秘めており、今後の活用が期待されています。
グローバル投資拡大が非公開求人を一般化させる背景
グローバル投資とクロスボーダー案件の増加は、不動産AM業界が求める人材像を大きく変化させています。複雑な国際取引を成功させるためには、多岐にわたる高度なスキルセットを持つ人材が不可欠であり、その獲得のために非公開求人が主流となっています。
- 専門性の高いグローバル人材の希少性
クロスボーダー案件を扱うAM会社が求める人材は、単に英語ができるだけでなく、以下のような専門性を兼ね備えている必要があります。
- 国際的な不動産市場に関する深い知識: 各国の不動産法規、税制、文化、商慣習、市場動向に関する深い理解。
- 高度な金融・財務知識: 国際会計基準(IFRS)、為替リスク管理、クロスボーダーファイナンスの知識。
- 多様な文化・背景を持つステークホルダーとのコミュニケーション能力: 投資家、現地のブローカー、法律事務所、会計事務所、PM会社、政府関係者など、多岐にわたる海外のパートナーと円滑な関係を構築し、交渉をまとめる高いコミュニケーション能力と交渉力。
- グローバルなネットワーク: 世界中の不動産プレーヤーとのコネクションは、情報収集や新たな投資機会の発掘において極めて重要です。
- 異文化理解と適応力: 現地の文化やビジネス慣習を尊重し、変化に柔軟に対応できる異文化理解力。
このような多角的なスキルを持つ人材は市場に少なく、公開求人では応募が殺到する一方で、本当に求める人材に巡り合うのが困難です。そのため、企業は効率的に適任者を見つけるために、非公開でアプローチする戦略をとります。
その際、企業が採用手段として用いる代表的な方法は、以下の3点です。
・“不動産ファンドに特化した転職エージェント”を活用し、希少な人材を獲得する
・LinkedInなどのプラットフォームを活用し、企業側から候補者にダイレクトアプローチを行う
・リファラル採用(社員紹介制度)により、従業員の知人や関係者から人材を紹介してもらう
- 機密保持と競争優位性の確保
クロスボーダー案件は、投資戦略のコアとなる情報を含むことが多く、その計画や対象物件、パートナー企業などの情報が外部に漏れることは、競争上の大きなリスクとなります。
- 戦略的なプロジェクトの遂行: 新規市場への参入、大規模な買収・売却、特定のパートナーとの連携など、企業にとって重要な戦略的プロジェクトに関連する人材採用は、機密性を保ちながら進める必要があります。非公開求人であれば、情報漏洩のリスクを最小限に抑えられます。
- 競合他社への情報流出防止: 求める人材の具体的なスキルセットや経験が公開されることで、競合他社に自社の戦略を悟られることを防ぎます。
- 潜在層へのアプローチとマッチングの最適化
公開求人では、積極的に転職活動をしている層にしかリーチできません。しかし、グローバルなAM案件を担えるような優秀な人材の多くは、現職で高い評価を得ており、給与も高く設定されるケースが多く、自ら積極的に転職活動をしていないケースが少なくありません。
- ヘッドハンティング型アプローチ: 非公開求人は、転職エージェントが持つ独自のネットワークやデータベースを通じて、このような潜在的な候補者に直接アプローチする「ヘッドハンティング型」の採用を可能にします。
- ミスマッチの低減: エージェントは、企業と候補者の双方のニーズを深く理解しているため、スキルや経験だけでなく、企業文化やチームとの相性まで考慮した、より精度の高いマッチングを実現できます。これにより、入社後のミスマッチを減らし、早期離職のリスクを低減します。
- 時間とコストの効率化: 企業側は、大量の応募書類の選考や、ミスマッチによる再採用のコストを削減できます。候補者側も、自身のスキルや経験に合致しない求人に応募する手間を省き、効率的に最適な機会を探すことができます。また、企業側のニーズと候補者のスキルや志向がマッチした場合には、通常よりもスピーディーに選考が進むことや、カジュアル面談を設定するなど、柔軟な対応が期待できるケースもあります。
- 採用市場における企業ブランドの維持
一部の著名なAM会社や外資系ファンドは、常に多数の応募があるため、求人を公開する必要性が低い場合があります。また、頻繁に求人を公開することが、あたかも人員の流動性が高いかのような印象を与え、企業ブランドに影響を与えることを懸念するケースもあります。非公開求人であれば、こうした懸念を払拭しつつ、必要な時に必要な人材を獲得することが可能です。
実際に、アジア最大級の外資系AM会社の一社では、非公開求人を巧みに活用し、極めて限定的かつピンポイントで募集を行うことで、応募数を最小限に抑えながらも、的確な人材の採用に成功した事例があります。
グローバルAM転職成功へのロードマップ
グローバル投資が一般化する不動産AM業界への転職を成功させるためには、以下の要素が不可欠です。
- 高度な英語力: ビジネスレベル以上の英語力は必須であり、特にオンラインやメールでの投資家対応では交渉やプレゼンテーションで通用するレベルが求められます。また、TOEICスコアだけでなく、実務での使用経験が重視されます。
- 国際的な不動産・金融知識: 各国の不動産市場、法規、税制、国際会計基準、為替ヘッジなどに関する知識を体系的に学ぶ意欲と実績。不動産証券化マスター、CFA(CFA Institute認定証券アナリスト)、USCPAなどの資格は有利に働きます。
- 異文化コミュニケーション能力: 多様なバックグラウンドを持つ人々との協業経験や、異なる価値観を理解し尊重する姿勢。過去に海外での居住経験がある方や、インターンシップを通じて海外の文化や人々と接してきた経験は、評価されやすい傾向にあります。
- 論理的思考力と問題解決能力: 複雑な国際案件において、多角的な視点から課題を特定し、最適なソリューションを導き出す能力。
- 積極的な情報収集とネットワーク構築: 海外市場のトレンド、新規アセットの情報、主要プレーヤーの動向などを常に把握し、国際的なネットワークを広げる努力。LinkedInなどのビジネスSNSも有効です。
- 自身の「グローバルな強み」の明確化: これまでの経験で培ったスキル(例:海外駐在経験、国際プロジェクトマネジメント経験、海外顧客対応経験など)を、いかに不動産AMのグローバル案件に活かせるかを具体的にアピールする準備。
- 専門性の高い転職エージェントの活用: グローバル案件やハイクラス層に特化した転職エージェントに複数登録し、非公開求人の情報を得るだけでなく、レジュメ添削、面接対策、給与交渉など、包括的なサポートを受けること。特に海外拠点を持つエージェントや、現地情報に詳しいコンサルタントとの出会いは重要です。
🔗自己分析を通じて導く不動産業界の志望動機作成術-外せないポイント-
まとめ
不動産アセットマネジメントにおけるグローバル投資とクロスボーダー案件の拡大は、業界に新たな成長機会をもたらすと同時に、求める人材像をより高度で専門的なものへと変化させています。このような背景から、希少なグローバル人材を獲得するための採用戦略として、非公開求人の活用はもはや「一般的」な手法となっています。
このダイナミックな市場でキャリアを築くためには、語学力はもちろんのこと、国際的な不動産・金融知識、異文化理解、そして何よりもグローバルな視点と挑戦意欲が不可欠です。
bloom株式会社は、不動産ファンドに特化した転職エージェントとして、非公開求人を含む多様なポジションのご紹介に加え、クロスボーダー案件や、そこに至るまでのキャリアルートのご提案を通じて、あなたのアセットマネジメント業界におけるキャリア構築を全力でサポートいたします。
当社のリソースを最大限に活用し、ご自身の強みを戦略的にアピールすることで、不動産アセットマネジメント業界の最前線で活躍するチャンスを掴むことができるでしょう。
参考リンク