サマリー
本記事は、2024年から2026年にかけての日本の不動産投資市場の動向を軸に、アセットマネジメント(AM)業務の本質、プロパティマネジメント(PM)との連携、最新のDX(デジタルトランスフォーメーション)活用、そしてキャリア形成における専門スキルと年収相場について詳細に解説するものです。
2024年の国内不動産投資額は、2020年以来となる4兆円の大台を突破し、2025年には年間6兆円規模に達するとの予測が出ています。低金利環境の継続とインバウンド需要の回復、そして企業のオフィス回帰を背景に、不動産アセットマネジメント会社には、単なる「保有・管理」を超えた、賃料増額(レントハイク)やコスト最適化を主導する「アクティブな運用」が求められています。
求職者の皆様に向け、本職種の収益構造や業務内容、金利上昇局面における戦略的対応、さらには1,000万円から2,000万円を超える年収を実現するための要件についても網羅的に紹介します。不動産と金融が融合するこの領域は、今後2026年に向けてさらなる高度化と競争激化が予想されており、本レポートが次世代のアセットマネジャーとしての指針となれば幸いです。
不動産アセットマネジメントとは?職種別の仕事内容、AM実務経験者監修 –
不動産アセットマネジメントの概要と市場の現在地
不動産アセットマネジメント(AM)とは、投資家やオーナーから委託された不動産資産を対象に、その価値を最大化するための運用戦略を立案・実行する総合的なマネジメント業務を指します。アセットマネジメント会社は、建物の物理的な管理を行うプロパティマネジメント(PM)会社を指揮し、賃貸条件の最適化や大規模修繕の計画、資産の売却判断などを通じて、投資家に対して最大限の収益を還元する責務を負っています。
不動産投資市場の急成長と2025年の展望
日本の不動産投資市場は、2024年から2025年にかけて極めて力強い回復を見せています。2024年通年の投資額(10億円以上の取引が対象)は、2023年の3.95兆円を上回り、4兆円を大きく超えることが確実視されています。さらに、2025年上半期には既に3兆円を超える投資が記録されており、年間投資額は2007年のピークに匹敵する6兆円規模に達する現実味を帯びています。
市場の成長を支えているのは、国内外の投資家による旺盛な投資意欲です。特に海外投資家は、欧米市場と比較した際の日本の金利の安定性と、円安を背景とした割安感を再評価しており、オフィスやホテル、物流施設といった多様なアセットに対する取得意欲を維持しています。

市場規模の拡大は、アセットマネジメント業務を行う企業にとって、案件獲得(ソーシング)の競争激化を意味します。一つの物件に対し数十社が入札に参加することも珍しくなく、マーケットに出る前の水面下の情報をいかに取得するかが、AM会社の競争力の源泉となっています。
AM(アセットマネジメント)とPM(プロパティマネジメント)の役割分担
不動産運用の現場では、AMとPMの連携が不可欠です。両者は「資産の運用」と「建物の管理」という異なる側面から、一つの物件に対応します。
- アセットマネジメント(AM): 投資家の視点に立ち、ポートフォリオ全体の収益最大化を目指す「司令塔」です。主な業務には、物件の取得・売却戦略の策定、資金調達、大規模リノベーションの意思決定、PM会社の選定と監督、投資家へのレポーティング等が含まれます。
- プロパティマネジメント(PM): AMが立てた戦略を現場で実行する「実務の要」です。具体的な業務内容は、テナントの募集・審査、賃貸借契約の管理、クレーム対応、建物の日常的な清掃・点検、設備の維持管理等です。
AM者が立案した「賃料を10%引き上げる」という戦略に対し、PM者がテナントとの交渉を行い、建物価値の向上に資する管理体制を構築することで、初めて不動産投資の成功が担保されます。
2024年以降の主要アセットタイプ別戦略
不動産投資の対象となる物件(アセット)は、その特性によって運用戦略が大きく異なります。2024年から2025年にかけてのセクター別動向を分析します。
オフィスセクター:Aグレード物件への回帰とDX対応
コロナ禍を経て、多くの企業がハイブリッドワークから「出社回帰」へと舵を切っています。特に東京都心のグレードAオフィス(大規模・高機能ビル)の空室率は、2025年時点で2.4%まで低下しており、需給が引き締まっています。
アセットマネジャーに求められるのは、単なる事務スペースの提供ではなく、人材獲得に有利な「選ばれるビル」へのアップグレードです。具体的には、共用部へのウェブ会議ブース設置、リフレッシュスペースの拡充、さらには顔認証セキュリティやスマートロックの導入といったDX対応を行うことで、坪単価の向上を図ります。
物流施設(ロジスティクス):2024年問題と地方分散
物流セクターは、EC需要の拡大により高い人気を博してきましたが、2024年には供給過剰による空室率の上昇が課題となりました。首都圏の空室率は9.7%まで上昇しましたが、2026年には新規供給の抑制と需要の底堅さにより、8%台へ改善する見通しです。
また、「2024年問題(配送ドライバーの残業規制)」を背景に、配送効率を高めるための拠点再編が進んでいます。AM戦略としては、首都圏一極集中から、近畿、中部、福岡といった地方主要都市への資産分散が本格化しています。
ホテルセクター:インバウンド需要とADRの最大化
インバウンド(訪日外国人)の急増により、ホテル投資額は2024年に1兆円を突破しました。ホテルのAMは、他のアセットとは異なり、日々の宿泊単価(ADR)や稼働率を細かく管理するオペレーショナルな知識が不可欠です。
運営会社(オペレーター)との緊密な連携により、季節やイベントに合わせた柔軟な価格戦略を行い、収益を最大化することが主眼となります。2025年以降もこの傾向は続き、既存ホテルのリブランドやバリューアップ案件が投資家から高い関心を集めています。
賃貸住宅(レジデンシャル):安定性と付加価値の向上
レジデンシャルは、景気変動に左右されにくい安定したインカムゲインが魅力です。最新のトレンドでは、スマートホーム化による差別化が進んでいます。例えば、顔認証セキュリティを標準化することで管理コストを削減しつつ、入居者の利便性と資産価値を向上させています。

不動産アセットマネジメントの実務と高度な専門性
アセットマネジャーの業務は、金融理論と不動産実務が交差する極めて専門性の高い領域です。
投資判断の基礎:ファイナンスと計数管理
AM業務の核となるのは、将来のキャッシュフローを予測し、現在の価値を算出する計数管理能力です。特に以下の指標を使いこなすことが求められます。
- DCF分析(Discounted Cash Flow): 将来得られる収益を現在価値に割り引いて評価する手法。
- IRR(内部収益率): 投資期間全体での収益性を評価する指標。
- NOI(純収益): 運営総収入から運営費用を差し引いた実質的な収益。
金利上昇局面においては、割引率の設定やリファイナンスコストの見極めが、ファンド全体の成否を左右します。アセットマネジャーは、日銀の政策金利動向を注視し、LTV(借入金比率)の最適化や金利ヘッジ戦略を立案します。
「泥臭い」運用とバリューアップ実務
アセットマネジメントは、華やかな投資業務だけではありません。現場での「泥臭い」調整こそが、価値向上の鍵を握ります。
- テナント交渉: 更新時期に合わせた賃料増額の交渉や、退去を未然に防ぐためのリレーション構築。
- コスト削減: 照明のLED化や補助金を活用した省エネ改修を行い、運営費用(OPEX)を圧縮する。
- 工事管理: 大規模修繕やバリューアップ工事において、適切なコストと工期で資産の若返りを図る。
このような実務を通じて、現状の賃料(Current Rent)と市場賃料(Market Rent)のギャップ(レントギャップ)を埋め、物件のアップサイド・ポテンシャルを引き出すことがAMの本質です。
2025年以降の採用トレンドとキャリア形成
不動産AM業界は、高い専門性と引き換えに、非常に魅力的な報酬体系を有しています。
年収相場と職種別のニーズ
転職支援企業の情報によると、2025年の不動産金融・AM業界の年収水準は以下の通りです。

報酬体系は、基本給に加えて業績に連動したボーナスの比率が高いのが特徴です。特にアクイジション(物件取得)部門では、多額の取引を成立させることで、年収が跳ね上がるケースも珍しくありません。
求められるスキルと推奨資格
業界への入り口は、金融(銀行・証券)出身者や大手不動産会社出身者が中心ですが、近年は専門特化した知識を持つ若手の採用も活発です。
- 必須の知識: 不動産関係法規(宅建業法等)、マーケット分析、財務諸表の読解。
- 推奨資格:
- 宅地建物取引士(宅建): 業界のパスポート。
- 不動産証券化協会認定マスター(ARESマスター): 実務知識の証明として最も評価される。
- 不動産鑑定士: 評価のプロとしての高い信頼。
- CFA(米国公認証券アナリスト): 外資系ファンドを目指す場合に有効。
- ソフトスキル: 多様なステークホルダーをまとめるコミュニケーション力と、納期を遵守するプロジェクト管理能力。
DXとESG:次世代のアセットマネジメント戦略
2024年以降、テクノロジーの活用(DX)と環境への配慮(ESG)は、投資家からの資金を呼び込むための必須条件となりました。
不動産DXによる業務効率化と価値向上
AM会社やPM会社が導入を進める最新のDX事例は多岐にわたります。
- AI賃料査定: プロパティエージェント社等が導入しており、査定件数の急増と精度の向上を実現しています。
- VR内見・3Dウォークスルー: スペースリー等のサービスを活用し、オンラインでの内見を可能にすることで、成約までの期間を短縮します。
- スマートビル管理: 三菱地所や三井不動産は、AI画像解析やロボットを活用して施設運営を高度化し、人的ミス削減とコスト削減を両立させています。
- 電子署名・電子契約: レオパレス21等の事例では、入居契約の全電子化により、契約処理時間を大幅に短縮しています。
これらの技術は、単なる効率化だけでなく、建物から得られるデータを統合的に活用することで、より精度の高い運用計画の立案を可能にしています。
ESG対応と資産の「グリーン化」
投資家は現在、GRESB等の環境評価指標を重視しています。AM者は、保有資産の省エネ性能を高めることで、「グリーン・プレミアム」と呼ばれる資産価値の上昇を狙います。
J-REIT各社は現在、古い物件を売却し、環境性能が高い築浅物件を取得する「資産入替」を戦略の柱としています。これは、脱炭素社会への対応が、将来的な売却価格の維持(ブラウン・ディスカウントの回避)に直結するためです。
2026年に向けた展望と結論
2026年にかけての日本の不動産投資市場は、緩やかな金利上昇という新たなフェーズに突入します。
金利上昇局面での勝ち残り戦略
日銀の政策変更により、2026年には政策金利が1%近くまで上昇するとの予測もあります。このような環境下で求められるのは、金利コストの上昇分を吸収できるだけの「賃料成長」を実現する力です。
2026年の市場予測では、供給不足が続く特定のセクター(データセンターやシニアハウジング、都心オフィス等)において、入居率の上昇と賃料の底堅さが期待されています。アセットマネジャーは、マクロ経済のボラティリティを構造的な追い風に変え、分散化されたレジリエンス(回復力)のあるポートフォリオを構築することが求められます。
不動産AMを目指す方へのアドバイス
不動産アセットマネジメントは、不動産という「実物資産」を扱いながら、金融という「レバレッジ」を活用して社会の富を創出する、非常にダイナミックな事業です。
2024年から2025年にかけての市場拡大期を経て、2026年以降はより選別的な投資が行われる時代となります。求職者の皆様は、自身の専門性を磨くと同時に、AIやDXといった新技術への対応、そしてESGというグローバルな基準を理解することで、業界から「最大」の評価を受けるプロフェッショナルを目指してください。
不動産業界に少しでもご興味をお持ちの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。
あなたのこれまでの経験の中に、きっと活かせる強みが眠っています。
不動産、金融転職に特化したサポートをしているbloom株式会社では、これまでのご経験をどのように新しいキャリアに繋げられるのか、丁寧にご説明させていただきますので、ぜひ一度ご相談ください。
参考URL
不動産アセットマネジメントとは?職種別の仕事内容、AM実務経験者監修 –
不動産市場を展望する (CBRE「不動産マーケットアウトルック2025」より抜粋)
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⚫︎監修者
bloom株式会社 最高執行役社長 (COO) 小田村 郷
慶應義塾大学を卒業後、三井不動産リアルティ株式会社に入社し、不動産仲介(リテール・法人)の第一線で実務経験を積む。
その後、トーセイ・アセット・アドバイザーズ株式会社に移籍。不動産ファンドのアセットマネジメント(AM)業務を専門に担当し、投資家サイドの高度な専門知識を習得する。
独立後、bloom株式会社に参画。最高執行役社長として、不動産仲介からアセットマネジメントまで、不動産業界の川上から川下までを熟知したプロフェッショナルとして事業全体を牽引している。